東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)147号 判決
原告主張の請求原因事実については、すべて当事者間に争いがないところ、右事実によれば、原告の請求は理由がある。
よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件における請求原由は左のとおりである。
(一) 特許庁における手続の経緯
原告は、登録第二七六三三九号意匠(登録出願昭和四一年一月六日、設定登録昭和四二年一〇月二五日、意匠に係る物品「ドライバービツト」、意匠登録を受けた意匠別紙第一図面(〔編註〕省略)に記載のとおり。以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、被告は、昭和四九年六月二二日、原告を被請求人として、本件意匠の登録を無効にすることについて審判を請求し、この請求は昭和四九年審判第四八三三号事件として審理されたが、昭和五五年四月一日本件意匠の登録を無効とする旨の審決があり、右審決の謄本は、同月二一日原告に送達された。
(二) 審決理由の要点
請求人は、本件登録意匠は、その出願前公知公用のものであり、出願時において登録要件を欠除する意匠であると主張し、その主張事実を立証するため、甲第一号証の一ないし七、甲第二号証(写)、甲第三号証の一及び二(各写)、甲第四号証の一ないし三、甲第五号証の一及び二(各写)、甲第六号証ないし甲第一二号証(甲第二号証の原本)を提出した。
これに対し、被請求人は、甲第一号証の一ないし七は、それら図面が秘密を脱した状態のものであつたことの証拠が無く、いずれも請求人の主張を裏付ける証拠たりえず、甲第二号証のカタログは、単に甲第三号証の一、二に示す取引書類を以つてその公知性が立証されているとは認められず、甲第三号証の一及び二は、請求人と利害関係下にある一私人の証明にすぎず、甲第四号証の一ないし三に示す保谷町商工会主催の商工展示会風景の写真についての保谷市商工会の証明には問題があり、被請求人は上記展示会開催の事実を知らない以上、請求人の主張を承服することができず、甲第五号証の一及び二に示す侵害事件における侵害意匠は、本件登録意匠とは非類似であつて、本件とは無関係であり、請求人の主張は、悉く失当なものであると主張した。
そこで、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「ドライバービツト」として昭和四一年一月六日登録出願され、昭和四二年一〇月二五日登録、昭和四三年一月九日特許庁発行の意匠公報に掲載されたものであつて、その態様は、六角柱(外接円柱直径と長さの略比が1:9.2)の両端部を尖らせ、両尖部の少し内側に輪状溝を設けたもので、両尖部は、末端中央部を中心に、それに向つて傾斜する長手方向に細長い三角形状をなす四斜面と、断面V字状をなす四凹部が放射状に交互に表わされ、細長い三角形状斜面部は、先端側から見ると凸十字状を呈しており、断面V字状の各凹部は、その先端部側半分の輪郭が両側の細長い三角形状斜面の長辺を両辺とする山形状で、反対側半分の輪郭は対称の関係の山形状に六角柱体周面上に表われて、長手方向に長い菱形が中央で屈折した状態を呈し、輪状溝は、断面弧状でかなり幅広(外接円柱直径の約〇、六倍)に表わされているものであると、願書の記載及び願書に添付の図面によつて認める。
これに対し、請求人が甲第一二号証(甲第二号証の原本)として提出した株式会社青山製作所(東京都北多摩郡保谷町上保谷三六〇番地所在)発行のカタログ「PLANET」の内側左頁に掲載されている一二本のドライバービツト中、左側上段のドライバービツトの意匠(以下「引用意匠」という。)の態様は、六角柱(外接円柱直径と長さの略比が1:10)の両端部を尖らせ、両尖部の少し内側に輪状溝を設けたもので、両尖部は、末端中央部を中心に、それに向つて傾斜する長手方向に細長い三角形状をなす四斜面と、断面V字状をなす四凹部が放射状に交互に表わされ、細長い三角形状斜面部は、先端側から見ると凸十字状を呈しており、断面V字状の各凹部は、その先端部側半分の輪郭が両側の細長い三角形状斜面の長辺を両辺とする山形状で、反対側半分の輪郭は対称の関係の山形状に六角柱体周面上に表われて、長手方向に長い菱形が中央で屈折した状態を呈し、輪状溝は、断面弧状でかなり幅広(外接円柱直径の約〇、七倍)に表わされているものであると、掲載図によつて認められる。
両意匠を対比すると、意匠に係る物品は同一で、態様は、太さと長さの比、太さに対する溝幅の比に微差のある外は、殆んど同様に表わされており、両者は互いに類似するものであると認められる。
ところで、請求人が甲第四号証の二として提出した展示場の写真は、本件登録意匠出願前、昭和四〇年一一月三日より昭和四〇年一一月五日まで、保谷町商工会主催の商工展示会に青山製作所が出品した展示場所の写真であることが、写真裏面になされている保谷市商工会(東京都保谷市中町一丁目五番一号所在)の証明によつて認められ、その写真には、展示品の前側に置かれたカタログが写されており、そのカタログは、前記のカタログと同一のものであると認められる。したがつて、本件登録意匠は、その出願前、国内に頒布された刊行物に記載されたものと類似するものであり、意匠法第三条第一項第三号に該当する。
被請求人は、該展示会開催の事実を知らない旨述べているが、請求人が甲第八号証として提出した昭和四〇年度保谷町商工展示会開催要綱(主催 保谷市商工会、後援 保谷町)、甲第九号証として提出した昭和四〇年度保谷町商工展示会小間割会議資料によつて、明らかな事実であることが認められ、かつ、詳細な記録が現存し、保谷町産業発展育成に寄与することを目的として、保谷市商工会が力を注いでその展示会を盛り上げた経緯が認められることから、「過去の事実を正確に記憶して証明できること自体に問題がある。」とする被請求人の主張は認め難い。
以上のとおりであつて、本件登録意匠は、意匠法第三条第一項の規定に違反して登録されたものであるから、同法第四八条第一項の規定により、結論のとおり審決する。
(三) 審決を取り消すべき事由
審決は、請求人(被告)が甲第四号証の二として提出した展示場の写真(本訴甲第三号証の一三)が、本件意匠の登録出願前の昭和四〇年一一月三日より同月五日まで保谷町商工会主催の商工展示会に青山製作所が出品した展示場所であり、また、その写真に写されている展示品の前側に置かれたカタログは、甲第一二号証のカタログ(本訴甲第七号証の六)と同一のものである、と認定しているが、右認定は誤りであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、審決は、違法として取り消されなければならない。